親が認知症かも?と思ったら最初にすること【受診・相談・手続きの流れ】
「最近、同じことを何度も聞く」「財布をしょっちゅうなくしている」「帰省したら部屋がひどく散らかっていた」——そんな変化に気づいたとき、多くの子どもは「まさかうちの親が…」という気持ちと向き合います。
認めたくない。でも、見て見ぬふりもできない。
この記事では、認知症の疑いが生じたときに最初にすべきことを、受診前の準備から診断後の手続きまでステップ順に解説します。さらに、「親が病院を嫌がる」「自分が遠くに住んでいて動けない」「きょうだいが大げさだと言う」というリアルな障壁への対処法も、具体的にまとめました。
「まさかうちの親が…」
——その戸惑いは正常な反応です

家族がたどる4つの心理ステップ
公益社団法人「認知症の人と家族の会」の研究によると、家族は認知症の疑いや診断後に次の4つの心理ステップをたどることが多いとされています。
| ステップ | 状態 |
|---|---|
| ①とまどい | 「なんかおかしい」「でもまさか」という気持ちが交錯する |
| ②混乱 | 現実を突きつけられ、何をすべきかわからなくなる |
| ③割り切り | 「認知症と向き合おう」と受け入れ始める |
| ④受容 | 本人と家族なりの生活スタイルを見つける |
「なかなか動けない」「見て見ぬふりをしてしまう」のは、①〜②のステップにいる自然な状態です。自分を責める必要はありません。
ただ、この記事を読み終えた後に「まず一歩だけ」行動していただけると、将来の選択肢が大きく広がります。
今の日本の現実——高齢者8人に1人が認知症
厚生労働省が2024年に公表した最新推計によると、2025年時点の認知症患者数は約471万人、有病率は12.3%と見込まれています。65歳以上の高齢者の約8人に1人が認知症という計算です(出典:厚生労働省「認知症及びMCIの高齢者数と有病率の将来推計」2024年)。
「うちの親に限って」という感覚は自然ですが、統計的には決して珍しいことではありません。
認知症とMCI(軽度認知障害)の違い
——「まだ間に合う」段階がある

MCIとは何か
MCI(軽度認知障害)とは、認知症の一歩手前の状態です。記憶力などの認知機能は低下しているものの、日常生活には大きな支障がない段階を指します。
認知症との違い:日常生活(食事・着替え・外出など)は基本的に自分でできる。
MCIは「認知症」ではない——回復・維持できる可能性がある
MCIの方がその後1年で認知症に移行する割合は年間10〜15%とされています。逆に言えば、適切な対処(薬物療法・生活習慣の改善・認知リハビリ等)で認知症への移行を遅らせたり、回復できる場合があるのです。
「もの忘れが増えてきた」と感じる段階こそが、最も介入効果が高いタイミングです。「認知症かも」と思ったら、その段階がまだMCIである可能性があり、今動くことに大きな意味があります。
今すぐ受診すべき理由
——2023年に状況が変わった

新薬「レカネマブ」の登場で早期受診の価値が急上昇
2023年12月、アルツハイマー型認知症の新薬「レカネマブ(製品名:レケンビ)」が日本で保険適用されました。これは認知機能の低下を約27%抑制する効果が確認された、世界初クラスの疾患修飾薬です。
しかし、この薬には重要な条件があります。
適用対象は「軽度認知障害(MCI)〜軽度の認知症」段階のみ
中等度・重度に進行してからでは、この薬を使うことができません。
つまり、早期に受診して診断を受けることが、治療の選択肢を最大化する唯一の方法です。「もう少し様子を見てから」という先送りが、使える薬の選択肢を閉ざしてしまう可能性があります。
※レカネマブの適用には複数の条件があります。詳細はかかりつけ医または専門医にご確認ください。
※出典:国立長寿医療研究センター「アルツハイマー病の新しい治療薬レカネマブについて」
早期診断で使える支援・サービスが広がる
診断が確定することで、以下の支援にアクセスできるようになります。
- 介護保険サービスの利用(要介護認定申請が可能になる)
- 認知症施策推進大綱に基づく地域支援(認知症サポーター・認知症カフェ等)
- 本人が意思能力のあるうちに行える法的手続き(後述)
- 自治体の独自支援サービス(徘徊SOSネットワーク登録等)

レカネマブの登場は、認知症ケアにとって本当に大きな転換点でした。『早く受診しても治らないから』という時代は終わりつつあります。だからこそ、疑いを感じたら早めの行動が大切です。
最初の一歩
——何科に行けばいい?受診前の準備リスト

受診のルート
ステップ1:まずかかりつけ医に相談
認知症の専門科に直接行く前に、まずかかりつけ医(内科・かかりつけクリニック)に相談するのが最も自然で親の抵抗感も少ない方法です。かかりつけ医が「専門的な検査が必要」と判断した場合、専門科に紹介してもらえます。
ステップ2:専門科への受診
- もの忘れ外来:認知症専門の外来。全国の基幹病院に設置
- 脳神経内科:脳・神経系の専門科。認知症の診断・治療に対応
- 精神科・神経精神科:行動・心理症状(BPSD)が強い場合に適切
- 認知症疾患医療センター:全国約500カ所。専門的な診断・相談が可能
かかりつけ医がいない場合や、直接専門機関を探したい場合は「認知症疾患医療センター」に連絡するのが確実です。
受診当日の持ち物チェックリスト
- 健康保険証・介護保険被保険者証(65歳以上の場合)
- かかりつけ医の紹介状(ある場合)
- お薬手帳
- 症状記録メモ(下記参照)
症状記録メモ——事前に書いておくと診察がスムーズ
診察室では緊張して症状を正確に伝えられないことがあります。以下を事前にメモしておきましょう。
記録すべき内容
1. いつ頃から変化に気づいたか(「半年前から」「1年くらい前から」)
2. どんな場面で困っているか(「同じ話を1時間に3回繰り返す」「財布を週2回以上なくす」)
3. 日常生活への影響(「一人での外出が不安」「薬の飲み忘れが増えた」)
4. 既往症・現在飲んでいる薬(薬の副作用で認知機能が低下するケースもある)
5. 家族歴(アルツハイマー病の血縁者がいるか)
具体的な数字・頻度・期間で記録するほど、診断の精度が上がります。
検査費用の目安
初診での認知症検査の費用(保険適用3割負担の場合)は、問診・神経心理学検査(長谷川式・MMSEなど)で2,000〜5,000円程度が目安です。MRI・CTなどの脳画像検査が加わる場合は、5,000〜15,000円程度になります(施設・検査内容によって異なります)。
親が「病院には行かない」と言うときの段階別対処法

親が受診を拒否するのは非常によくあることです。背景には2つのパターンがあります。
パターンA「自分はおかしくない」型:認知症を認めることへの恐怖・プライドから「私は正常だ」と主張する
パターンB「怖い・不安」型:診断されることで生活が変わることへの漠然とした不安
段階別の対処法
①「認知症」という言葉を使わない
❌「もの忘れが心配だから認知症の検査に行って」
✅「最近疲れが取れにくいみたいだから、健康診断を兼ねて脳のMRIを撮ってもらおう」
✅「血圧の薬をもらいに行くついでに、先生にもの忘れのことも聞いてみよう」
かかりつけ医への受診を「いつもの通院」の延長として位置づけると、抵抗感が大幅に下がります。
②家族だけで先に医師に相談する
本人が受診を拒否している段階でも、家族だけでかかりつけ医や地域包括支援センターに相談することができます。「本人が受診を嫌がっている」という状況を専門家に相談すると、具体的なアドバイスがもらえます。
③「認知症カフェ」「家族の会」を経由する
認知症カフェや「認知症の人と家族の会」のつどいに、家族として参加してみましょう。同じ悩みを持つ家族と情報交換ができるだけでなく、本人を連れて行ける場合もあります。
フリーダイヤル(認知症の人と家族の会):0120-294-456(平日10〜15時)
④訪問診療・在宅での認知機能チェックを依頼する
「外に出るのを嫌がる」場合は、訪問診療医に自宅での認知機能評価を依頼する方法もあります。かかりつけ医に訪問診療への切り替えを相談してみてください。
遠距離で暮らしていても動ける
——帰省前にやること・当日の準備

受診に付き添うための帰省タイミングの決め方
「受診のためだけに帰省するのはハードルが高い」と感じる方も多いです。しかし受診への付き添いは、診察室での情報提供・症状の補足に家族の存在が非常に重要です。
帰省タイミングの決め方
1. まず親に「健康診断に一緒に行こう」と電話で提案・合意を得る
2. 希望する病院・クリニックに事前電話で「家族が付き添い予定」と伝え、予約を取る
3. 予約日に合わせて帰省日程を確定する
「自分の都合で帰省日を決めてから病院を探す」より、「病院の予約から逆算して帰省日を決める」方がスムーズです。
帰省前の遠距離チェックリスト
帰省前にできること(電話・オンラインで可)
- 親が住む地域の地域包括支援センターに電話し、「親に認知症の疑いがあり、受診を勧めたい」と相談する(無料・匿名可)
- かかりつけ医の連絡先・診察日程を確認する
- 「もの忘れ外来」「認知症疾患医療センター」を事前にリストアップする
- 症状記録メモを電話・LINEで聞き取り、書き出しておく
帰省当日にやること
- 受診の同席(「家族として気になっていることを先生に伝えたい」と一言添える)
- 診断・検査結果の内容をメモする(スマートフォンで録音も可・医師に確認を)
- 次回の診察予定を確認し、誰が付き添うか決める
- きょうだいへ診察結果を共有する(LINEの一斉送信でOK)

遠距離でも、帰省前に地域包括支援センターに電話を一本入れておくだけで、動き方が変わります。『何をすればいいかわからない』という状態で帰省するより、事前に相談してから向かう方が、限られた滞在時間を有効に使えます。
診断結果が出たら
——確定前・確定後それぞれの次のアクション

診断前(疑いの段階)から始めておくこと
認知症の診断が確定する前でも、以下は並行して進めておくことを強くおすすめします。
①財産・重要書類の確認
– 通帳・証書・不動産権利書の場所を確認する
– 定期的な引き落とし・年金振込口座を把握する
②要介護認定申請の準備
– 認知症の診断がなくても「日常生活に支障が出ている」と判断されれば申請可能
– かかりつけ医の意見書が必要なため、受診との連携が重要
診断確定後:タイムリミットのある手続き
認知症と診断された後、判断能力が低下する前に済ませておくべき手続きがあります。進行してからでは、法的に有効な手続きができなくなります。
| 手続き | 期限の目安 | 内容 |
|---|---|---|
| 任意後見契約 | 判断能力があるうちに | 将来の後見人を本人が自ら選んでおく契約 |
| 家族信託 | 判断能力があるうちに | 財産管理を信頼できる家族に委ねる仕組み |
| 遺言書の作成 | 判断能力があるうちに | 自筆証書・公正証書いずれも意思能力が必要 |
| 生前贈与 | 判断能力があるうちに | 相続税対策として活用する場合も |
これらの手続きは「まだ大丈夫」と思っているうちに済ませておくことが重要です。認知症の進行は予測が難しく、「そろそろ手続きしよう」と思ったときには、法的に有効な手続きができなくなっているケースも少なくありません。
早めに司法書士・行政書士・弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
きょうだい・家族間で意見が割れたときの進め方

よくある意見の相違パターン
- 「母はまだ大丈夫」と否定する父親・配偶者
- 「大げさじゃない?」と言うきょうだい
- 「仕事が忙しくて動けない」という兄弟
こうした意見の相違は、「見ている量の差」と「受け入れたくない気持ち」の両方から生まれます。感情的に対立しても解決にならないため、事実を共有することが第一歩です。
事実ベースで共有する
「認知症っぽい」という印象論ではなく、記録した事実を共有します。
「先月の帰省時に同じ話を1時間に4回聞いた。冷蔵庫に同じ食品が5個あった。郵便物が3週間分溜まっていた。写真もある。一度一緒に確認してほしい」
具体的な事実(頻度・数・写真)があると、「大げさ」という反論が入りにくくなります。
家族会議の設け方
全員が集まれる機会に、以下の議題で短時間(30分程度)の話し合いを設けましょう。
- 現状の確認(気になっている症状を全員で共有)
- 受診の方針(誰が付き添うか・いつ行くか)
- 当面の役割分担(主担当を1人決める)
「誰が正しいか」を決める場ではなく「どう動くか」を決める場として設定することで、感情的な対立を避けられます。
まとめ:「気になった今日」が、選択肢が最も広い日
認知症は、早く気づくほど使える治療・支援・手続きの選択肢が増えます。2023年にレカネマブが保険適用されたことで、「早期診断=早期治療」の意味がこれまで以上に大きくなりました。
この記事のポイントをおさらいします。
- 「まさかうちの親が」は自然な反応。戸惑いながらでも動けばいい
- MCIの段階なら、適切な対処で認知症への移行を遅らせられる可能性がある
- レカネマブ(新薬)は軽度段階のみ適用。早期受診が治療選択肢を守る
- 受診前に症状記録メモを作成しておくと診察がスムーズになる
- 受診拒否には「健診・かかりつけ医の通院の延長」として誘うのが有効
- 遠距離でも帰省前に地域包括支援センターへ電話するだけで動き方が変わる
- 診断確定後の法的手続き(家族信託・任意後見)にはタイムリミットがある
- きょうだい間の意見相違は事実の共有から始める
「もしかして」と感じた今日が、最も多くの選択肢がある日です。まずは地域包括支援センターへの電話、またはかかりつけ医への相談から始めてみてください。

