在宅介護 vs 施設介護|費用・負担・後悔しない選び方を比較
「親に施設に入ってもらった方がいいのか、それとも在宅で続けるべきか」——介護が始まると、ほとんどの家族が一度はこの問いと向き合います。
費用の違いは気になるけれど、数字だけでは決めきれない。親の気持ちも大事にしたい。でも自分たちの生活も限界が近い——そんな葛藤の中で、正解のない選択を迫られるのが介護の現実です。
この記事では、在宅介護と施設介護の費用を最新データで徹底比較します。さらに、多くのサイトが触れない「見えないコスト」「切り替えタイミングの判断基準」「親が施設を拒否したときの対処法」「施設に入れる罪悪感の折り合い方」まで、子どもの立場で動ける情報をまとめました。
まず知っておきたい「在宅介護」と「施設介護」の基本の違い

在宅介護とは
在宅介護とは、自宅で生活しながら介護保険サービスを組み合わせて受ける形態です。訪問介護・デイサービス・ショートステイなどを利用しながら、基本的な生活の場を自宅に置きます。
家族が主体となって介護する「家族介護」も在宅介護のひとつですが、現実的には介護保険サービスとの組み合わせが不可欠です。
施設介護とは
施設介護とは、介護施設に入居して、24時間体制のケアを受ける形態です。主な施設の種類は以下の通りです。
| 施設名 | 通称 | 対象 | 月額費用の目安 |
|---|---|---|---|
| 介護老人福祉施設 | 特養 | 要介護3以上(原則) | 6〜15万円 |
| 介護老人保健施設 | 老健 | 要介護1以上 | 8〜14万円 |
| 特定施設入居者生活介護 | 有料老人ホーム等 | 要支援1以上 | 15〜35万円 |
| 認知症対応型共同生活介護 | グループホーム | 要支援2以上 | 12〜20万円 |
| サービス付き高齢者向け住宅 | サ高住 | 自立〜要介護 | 10〜30万円 |
在宅でも「ほぼ施設と同等のサポート」ができる
要介護度が高くなっても、訪問介護・訪問看護・定期巡回サービスを組み合わせれば、在宅でかなりの生活支援を受けられます。「在宅か施設か」の二択ではなく、段階的にサービスを増やしながら、最終的に施設へ移行するという連続的な選択が現実的です。
費用を徹底比較——在宅 vs 施設(要介護度別)

最新データで見る介護費用の全体像
公益財団法人生命保険文化センター「令和6年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、介護にかかった費用の実態は以下の通りです。
| 費用の種類 | 平均額 |
|---|---|
| 一時的な費用(住宅改修・用具購入等) | 約115万円 |
| 月額費用(介護サービス+その他の費用) | 約3.7万円(在宅)/約12.5万円(施設) |
| 介護期間の平均 | 約61.1か月(5年1か月) |
※出典:公益財団法人生命保険文化センター「令和6年度 生命保険に関する全国実態調査」
この数字を見て「在宅は安い」と思うかもしれませんが、3.7万円は介護保険サービスの自己負担分のみの数字です。次のセクションで説明する「見えないコスト」を加えると、在宅と施設の費用差は縮まります。
要介護度別・月額費用の比較
| 要介護度 | 在宅介護(月額目安) | 特養(月額目安) | 有料老人ホーム(月額目安) |
|---|---|---|---|
| 要介護1 | 約4.7万円 | ─(入居対象外が多い) | 約18〜25万円 |
| 要介護2 | 約6.6万円 | ─(入居対象外が多い) | 約18〜25万円 |
| 要介護3 | 約7.1万円 | 約6〜14万円 | 約20〜30万円 |
| 要介護4 | 約8.9万円 | 約7〜15万円 | 約20〜30万円 |
| 要介護5 | 約12.2万円 | 約7〜15万円 | 約22〜32万円 |
※在宅の数字は介護保険サービス費の自己負担(1割)のみ。食費・光熱費・日用品費は別途。
※特養は低所得者向け負担軽減制度(補足給付)を適用すると下限まで下がる場合あり。
10年間の累積費用試算
| 介護の形態 | 月額目安 | 10年間の総額試算 |
|---|---|---|
| 在宅介護(要介護3・サービス費のみ) | 約7万円 | 約840万円 |
| 特養(ユニット型個室・1割負担) | 約12〜15万円 | 約1,440〜1,800万円 |
| 有料老人ホーム(入居金別途) | 約20〜30万円 | 約2,400〜3,600万円 |
| サ高住(訪問介護別途) | 約15〜25万円 | 約1,800〜3,000万円 |
この試算だけを見れば「在宅が圧倒的に安い」に見えます。しかし次のセクションで、在宅介護には数字に表れない大きなコストがあることを解説します。
費用を圧縮できる公的制度
施設介護を選んでも、以下の制度で費用を大幅に減らせます。
高額介護サービス費:1か月の自己負担が上限額を超えた分が払い戻される制度。世帯収入によって上限が異なり、一般世帯で月44,400円が上限。
負担限度額認定制度(補足給付):特養・老健に入居している低所得者の食費・居住費を軽減する制度。対象者は大幅な費用削減が可能。
「在宅介護の見えないコスト」を正直に計算する

在宅介護の費用が「月3〜7万円」と見えても、それは介護保険サービスの自己負担分だけです。実際の在宅介護には、以下の「見えないコスト」が積み重なります。
①家族の介護時間コスト(機会費用)
家族が介護のために仕事を辞めたり、勤務時間を減らしたりした場合の損失は計り知れません。
試算例:年収400万円の50代女性が介護離職した場合
– 失われる年収:400万円 × 5年(介護期間の平均)= 2,000万円の損失
– 退職金・厚生年金・キャリアの損失を含めると、さらに大きくなる
介護離職は「仕事を辞めれば介護に専念できる」ではなく、「経済的・精神的に追い詰められるリスクが高まる」選択です。在宅介護を続けるためにも、介護サービスを積極的に使い、自分の仕事を守ることが重要です。
②遠距離介護の交通費・有休消化コスト
離れて暮らす子どもが在宅介護を支える場合、定期的な帰省コストが発生します。
| コスト項目 | 試算例(東京↔大阪の場合) |
|---|---|
| 交通費(新幹線往復) | 約2.8万円/回 |
| 月1回帰省 × 12か月 | 約33万円/年 |
| 5年間の交通費合計 | 約165万円 |
| 緊急帰省(年3回) | 約8万円/年 |
これに加えて、有給休暇の消化・職場への気遣い・精神的負担が重なります。遠距離在宅介護の「実質コスト」は、近距離施設介護を下回ることもあるのです。
③住宅改修・福祉用具購入の一時費用
在宅介護を続けるためには、自宅の安全対策が必要です。
- 手すり設置・段差解消などの住宅改修:介護保険上限20万円(1割負担で2万円)
- 介護保険外の改修(玄関拡張・バリアフリー化等):数十万〜数百万円
- 介護用ベッド・車いすのレンタル:月数千円〜1万円程度
住宅の構造によっては、改修費だけで数百万円かかる場合もあります。
在宅介護の費用が『安い』と言われることがありますが、多くの場合は家族の労力や時間は計算に入っていません。家族の介護時間には価値があります。その価値を守るためにも、サービスを積極的に使ってほしいと思います。
在宅介護・施設介護それぞれに向いている人の特徴

在宅介護が向いているケース
- 本人が「自宅にいたい」という強い意思を持っている
- 要介護度が比較的軽く(要支援〜要介護2程度)、日常生活動作がある程度自立している
- 同居または近居の家族がおり、物理的なサポートができる
- 認知症の進行が軽度で、一人でいる時間も比較的安全
- 住宅のバリアフリー化が可能な間取り・構造である
施設介護を検討すべきケース
- 夜間の徘徊・転倒リスクが高く、24時間の見守りが必要
- 医療的ケア(経管栄養・吸引等)が日常的に必要
- 家族の介護負担が限界に近づいている(睡眠不足・仕事への影響)
- 独居で、緊急時に対応できる人が近くにいない
- 認知症が中〜重度で、本人の安全確保が在宅では困難
「本人の意思」を最優先にする理由
費用や家族の状況だけで決めてしまうと、後から「あのとき本人はどうしたかったのか」という後悔が残ります。認知症が進行する前に、本人の意思をエンディングノートや家族会議で確認しておくことが最も重要です。
在宅から施設へ「切り替えるタイミング」の判断基準

「いつまで在宅を続けて、いつ施設に切り替えるか」は、多くの家族が答えを出せずに悩む問題です。
施設への移行を検討すべき具体的サイン
以下のサインが重なり始めたら、施設への移行を本格的に検討するタイミングです。
身体的サイン
– 転倒・骨折が月に1回以上起きている
– 食事・入浴・排泄のすべてに全介助が必要になった
– 医療的ケア(点滴・吸引等)が在宅訪問看護だけでは対応しきれなくなった
認知症のサイン
– 夜間の徘徊が週3回以上になった
– ガスの消し忘れ・水の出しっぱなしなど、在宅での安全確保が困難になった
– 暴言・暴力など、家族への精神的・身体的負荷が高まった
家族のサイン
– 主介護者の睡眠が4時間以下の状態が1か月以上続いている
– 主介護者が「もう限界」と感じている
– 仕事への影響(遅刻・欠勤・パフォーマンス低下)が出始めた
「段階的移行」という選択肢
いきなり施設入居ではなく、段階的な移行が本人・家族の精神的負担を下げます。
在宅介護(デイサービス週3回)
↓
ショートステイの活用(月7〜14日)
↓
小規模多機能型居宅介護への切り替え(通い・泊まり・訪問を一体提供)
↓
グループホーム(認知症対応・少人数)
↓
特養・有料老人ホームへの入居
ショートステイを試す機会に使う:「旅行中だけ預かってもらう」「体調不良時の一時入所」から始めると、本人が施設の雰囲気に慣れやすく、本格入居への心理的ハードルが下がります。
「限界まで在宅を続けた」結果のリスク
主介護者が燃え尽きてから動き始めると、希望する施設を選べない可能性が高くなります。特養は待機期間が都市部では2〜5年に及ぶこともあり、入居が急に必要になったタイミングで空きがないというケースは珍しくありません。
在宅介護を続けながらも、早い段階から施設の見学・資料請求・待機申請を並行して進めることが重要です。
親が「施設には絶対行かない」と言っているときの対処法

親が施設入居を強く拒否するのは珍しいことではありません。その背景には「施設=棄てられる場所」という昭和世代の根強いイメージがあります。
なぜ親は施設を嫌がるのか
- 「家族に捨てられる」という恐怖:施設は「捨てる場所」というイメージが根強い
- 「知らない人と生活したくない」:プライバシーへの不安と人見知り
- 「まだ自分は大丈夫」:認知症初期や要介護1〜2の段階では自覚が薄いことが多い
- 「死ぬまで自宅にいたい」:「在宅で看取ってほしい」という本人の意思
拒否を乗り越える3つのアプローチ
①「体験入居」「短期入所」から始める
「入居してほしい」ではなく「1週間だけ試してみよう」という提案から始める。実際に施設を体験して「思ったより快適だった」「友達ができた」という声は多い。
②施設見学を「見物」として一緒に行く
「入居のための見学」ではなく「どんな場所か見に行こう」という誘い方で、心理的ハードルを下げる。見学で職員や入居者と自然に話すうちに印象が変わることがある。
③ケアマネジャーに橋渡し役を依頼する
家族が何を言っても聞かない場合、担当ケアマネから「そろそろ施設での生活も選択肢に入れてみませんか?」と提案してもらう。第三者からの言葉は受け入れられやすい。
「施設に入れる罪悪感」をどう折り合いつけるか

「施設に入れることを決めた。でも、これでよかったのか——」
この罪悪感は、介護をしている子どもたちのほとんどが感じる感情です。特に女性は「娘なんだから、自分で介護すべき」という社会的プレッシャーと戦いながら決断することになります。
「施設に入れること=親を捨てること」ではない理由
- 施設の介護職員は、24時間専門的なケアを提供できるプロです。家族が一人で担うより、本人のQOL(生活の質)が上がるケースが多くあるのが現実です
- 家族が疲弊した状態で在宅介護を続けると、介護の質が下がり、虐待リスクも高まります。「施設に入れる判断ができる家族」は、親の幸せを真剣に考えた結果です
- 施設に入居しても、面会・外出・電話・一緒に食事をするなどの関わりは続けられます。「入居後の関わり方」が本人の幸福度を大きく左右します
施設入居後も「家族としての役割」は続く
- 定期的な面会で「家族がそばにいる」という安心感を与える
- 誕生日・季節のイベントに合わせた外出・外食を計画する
- 施設スタッフと連携して、本人の好みや生活歴を共有する
- 体調変化があったときに迅速に対応できる連絡体制を作る
施設に入居した後も、家族の関わりは本人の生きがいに直結します。「施設に預ける」のではなく「施設と一緒に支える」という意識の転換が、罪悪感の解消につながります。

私の身近でも、施設入居を決めるまで何年も悩んだ方がいます。でも入居後に『こんなに笑顔になるんだ』と感動したと話してくれました。決断の結果は、決めた後の関わり方で変えられます。
きょうだいで費用・役割分担を決める方法

在宅か施設かを決めることより、「誰がどう関わるか・費用をどう分担するか」でもめるケースの方が多いのが現実です。
費用負担の公平な分け方
一般的に、きょうだい間の費用負担は以下の3軸で考えると揉めにくくなります。
| 軸 | 考え方 |
|---|---|
| 収入の差 | 収入が多い方が多く負担するのが現実的 |
| 相続分との関係 | 将来の相続分が多い方が多く負担する形も合理的 |
| 物理的距離 | 近くに住む方は「労力」で貢献、遠方は「お金」で補う |
「お金・労力・時間」の3軸で分担を考えると、数字では見えにくい貢献が可視化され、不公平感が生まれにくくなります。
揉めないための「介護会議」の進め方
きょうだいが集まる機会(帰省・正月等)に、以下の議題で話し合いを設けましょう。
- 現状の確認:親の介護度・健康状態・かかっている費用
- 今後の方針:在宅継続か施設検討か・期間の目安
- 役割の割り当て:誰が主担当・緊急時の対応者・費用負担の割合
- 定期見直しのタイミング:半年後に再度集まる約束をする
感情論になりがちな話し合いも、事前に議題を書面化してLINEで共有しておくと、冷静に進めやすくなります。ケアマネジャーに同席を依頼するのも有効です。
まとめ:「在宅か施設か」より「いつ・誰と・どう決めるか」が大事

在宅介護と施設介護、どちらが正解かという問いに答えはありません。大切なのは、本人の意思・家族の状況・経済的な現実の3つを踏まえた上で、家族全員で納得できる選択をすることです。
この記事のポイントをおさらいします。
- 費用だけで比べると在宅が安く見えるが、見えないコスト(遠距離交通費・機会費用)を含めると差は縮まる
- 施設の種類によって費用は大きく異なる。特養は低所得者向け軽減制度で大幅に安くなる場合も
- 切り替えのタイミングは「限界になってから」では遅い。早めに施設見学・待機申請を並行して進める
- 親の拒否には「体験入居」「ケアマネへの橋渡し依頼」で段階的に対応する
- 「施設に入れる罪悪感」は、入居後の関わり方で解消できる。施設と一緒に支える視点に切り替える
- きょうだい間の費用・役割分担は「お金・労力・時間」の3軸で考え、介護会議で明文化する
まず一歩として、担当ケアマネジャーや地域包括支援センターに「今後の選択肢について相談したい」と伝えてみてください。専門家を味方につけることが、後悔のない決断への近道です。

在宅か施設かを迷っている時間は、決して無駄ではありません。ただ、早めに情報を集めて選択肢を広げておくことで、『選べる状況』を作っておくことが大切です。

